当センターは、電話やメールにより数多くのご相談やお問合わせを頂いています。先日も一般の方から調べたい遺言書が一通のみ当センターに郵送され、筆跡鑑定をして欲しいと依頼された方がいらっしゃいましたが、筆跡鑑定は対象となる筆跡のみでは鑑定を行うことが出来ません。このような事から現状では筆跡鑑定について理解されている方が少ないように思います。この状況を踏まえ、ここでは筆跡鑑定の基本的な事について出来る限り分かり易く説明していきたいと思います。筆跡鑑定について知識のある方には当たり前と思われる内容も含まれているかと思いますが、その場合はご確認用として、いま一度お読み頂ければと思います。
筆跡鑑定に必要な筆跡資料について
まず、筆跡鑑定とは問題となっている筆跡が真筆(その人が本当に書いた筆跡)もしくは偽筆(他人の書いた文字に似せて書くこと)であるか否かについて、問題となっている筆跡と同じ文字型の別筆跡とを照らし合わせる事によって、同一人或いは別人が書いた筆跡であるか否かを検証する事をいいます。この問題となっている調べたい筆跡を「対象筆跡」、また同一人による筆跡か或いは別人が書いた筆跡であるか否かを検証する為に照らし合わせる筆跡を「対照筆跡」と呼び、筆跡鑑定を行ないます。
前述の通り、筆跡鑑定は基本的に同型の文字同士で検証します。対象筆跡の「山」の筆跡と対照筆跡の「川」の筆跡では異同検証することは出来ませんし、もちろんですが、その逆の対象筆跡の「川」の筆跡と対照筆跡の「山」の筆跡でも鑑定する事は出来ません。例えば、対象筆跡にある「崎」の筆跡と対照筆跡にある「山」の文字とを筆跡鑑定してほしいという依頼があったとします。「崎」のやまへん部分と「山」を筆跡鑑定するという事ですが、このケースでは正しく筆跡鑑定を行なう事はできません。部分的に同型の文字であっても、双方の文字のあり方やお互いに与えられた空間の条件が異なる等、精密な異同検証が出来ないからです。参考程度に「崎」の偏と「山」の筆跡を筆跡鑑定することは可能ですが、あくまでも参考程度のものとなります。
具体的な対象資料
筆跡鑑定の対象資料は、実に様々な書類に記された筆跡があります。当センターでは以下のような書類に書かれた文字について多くの依頼があります。
- 遺言書
- 婚姻届、離婚届
- 業務関連書類
契約書
借用書
領収書
納品書
受領書
帳簿
出納帳 等 - 誹謗中傷文
- 落書き
最適な対照資料とは
対象筆跡に合わせて使用される対照筆跡は同一人が書いたものである事が必須条件です。理由は、照らし合わせる対照筆跡の筆者が確定されていれば、問題となっている対象筆跡との異同検証により同質性或いは異質性が表れ、その結果、対象筆跡の真筆もしくは偽筆である事が浮き彫りになっていくからです。
自筆遺言証書について
遺言書の中では、「自筆証書遺言」についての筆跡鑑定の依頼が圧倒的に多くなっています。「自筆証書遺言」は自分一人でも作成する事ができ、他者に遺言内容などについて秘密を守り易いため多くの方がこの方式を選択していると考えられます。
遺言書というものは若年者よりも年配者が作成するケースが多く、その分書いた文字の線に震えがあったり、誤字が含まれる事が多くなります。また他者が遺言書そのものを模倣するケースもありますので、このようなケースではしっかりとした対照筆跡資料を集めて問題の遺言書(対象筆跡)を精密に筆跡鑑定する事が重要です。
まとめ
これまでの内容をまとめると、
“良い筆跡鑑定書を作成するには対照筆跡が決め手”となります。
遺言書や借用書、誹謗中傷文等の筆跡を調べるにしても、筆跡鑑定の軸となるのは先にも述べました対照筆跡が筆跡鑑定の要となります。 対象筆跡と対照筆跡双方がそれほど離れていない時期に書かれている文字であれば、筆跡の本質的なあり方に大きな違いは生じづらくなり、逆に同時期や近い時期に書かれた筆跡であるにも関わらず本質に大きな違いがあれば双方の筆跡は別人の書いた筆跡である可能性が高くなっていくのです。
実際に筆跡鑑定を依頼される場合はどうぞお気軽にお問い合わせ下さい。どのような筆跡資料(対象筆跡と対照筆跡)が適しているか、状況をお聞きして最善のご提案を行います。