先日、またインターネット上にて筆跡鑑定について厳しく否定的な記述がありました。そこには「裁判所は筆跡鑑定を重視していないし、その鑑定結果も信用していない。」と記されていました。これは現役で活動している弁護士の方が記したもののようです。 この記述を読んで先ず思うことは、この弁護士さんが取り扱った筆跡鑑定書は内容がお粗末であったのだろうという事です。

以前から述べている事ですが、筆跡鑑定書は作成者である筆跡鑑定人によって内容が大きく異なります。これは筆跡鑑定の方法や鑑定の精度に至るまで、ほぼ全項目において内容が異なるといっても過言ではありません。筆跡鑑定書そのものの書式についても規定はなく、各筆跡鑑定人が独自の書式で筆跡鑑定書を作成しているのです。残念ながらこの弁護士さんは、しっかりとした技術をもっていない筆跡鑑定人に筆跡鑑定の依頼をしてしまったのでしょう。法を扱うプロの方ですから、信頼のおける筆跡鑑定人をビジネスパートナーにもつことは不可欠で、必要があればそこに筆跡鑑定の依頼をしたり、状況によってはクライアントに紹介してあげるべきです。

正直なところ、どの業界においても腕の良い技術者、腕の悪い技術者は共に存在しており、それを一括りに「裁判所は筆跡鑑定を重視していないし、その鑑定結果も信用していない。」とするのはあまりに酷い話です。少なくても手に取った筆跡鑑定書のみならず、筆跡鑑定そのものを評価するならば複数の筆跡鑑定書(例えば10件分とか)を手にして評価をしてもらいたいものです。そうでなければ冒頭の記述は筆跡鑑定についての評価ではなく裁判案件の一例に過ぎないと言えるでしょうし、筆跡鑑定書を依頼する際の失敗例になってしまいます。

また、筆跡鑑定書は裁判所の要請によって作成するものもあります。これは当センターのように裁判所の嘱託鑑定人が要請を受けて作成するものですが、裁判所が自ら筆跡鑑定書の作成を依頼したにも関わらず、その筆跡鑑定結果を無視して裁判を進めていく事はありません。今回の記述のように筆跡鑑定そのものを否定した場合は、それを採用している司法のあり方をも否定する事にもなってしまいます。

裁判案件によって筆跡鑑定を必要とする案件が多数存在し、また裁判所をはじめ筆跡鑑定を重視し信用している人が多数存在している事も間違いはありません。 多くの方が筆跡鑑定に関して正しい知識をもち、信頼のおける筆跡鑑定人に筆跡鑑定を依頼される事を切に願います。