筆跡研究開発センターでは日々様々なお問い合わせを頂いております。最近は特に筆跡鑑定の基本的な事柄についてのお問い合わせが多くなっています。筆跡鑑定が必要であるかどうか、また筆跡鑑定を依頼するのに適した機関を選ぶ為にも、ここでは筆跡鑑定を依頼される方に最低限知っておいて頂きたい内容について説明したいと思います。筆跡鑑定について知識のある方には当たり前と思う内容も含まれていますが、その場合はご確認用として今一度お読み頂ければと思います。

対照筆跡の数は多い方がよい

筆跡鑑定を行うには、調べて明らかにしたい対象筆跡とそれと照らし合わせる対照筆跡が必要です。この対象筆跡に対して、照らし合わせる側の対照筆跡は複数あった方がより精度の高い筆跡鑑定が行えます。その理由は、書いた文字には変動が常に伴う為、書かれた文字を1つ取り上げてそれを筆者の筆跡特徴とするのは危険であると同時に、正確な筆跡鑑定ができない可能性があるからです。

例えば、3点の対照筆跡があるとします。この3点の筆跡は少なからず文字のあり方に違いがあります。文字は常に同条件で書かれることはあり得ません。使用された紙やペン、また書かれた場所も変化していて机の上で書く事もあれば、場合によっては立ったまま記された筆跡もあります。体調も人はその時々で変化しますから文字への影響は少なからずあるでしょう。以前から文字と人の心理についても研究を進めていますが、人は体調が悪くなったり体力が落ちたりすると、同じ人が書いた文字でもその時は文字が小さくなる傾向があります。このように、同一人が書いた文字でもその都度変化しますから、照らし合わせる側の対照筆跡は筆者の筆跡特徴をしっかりと表し確認する事ができるように、1点よりも2点以上ある事が好ましいです(ただし、対象筆跡1点と対照筆跡1点でも鑑定は可能ですのでその場合はご相談下さい)。

過去に行った筆跡鑑定の実例

これはとある企業が取り交わした借用書についての筆跡鑑定でした。この企業の代表者にとって身に覚えのない借用書が取引のある企業から提出されたのでした。この借用書の日付は20年も前のものでした。

鑑定資料の対象筆跡1葉と対照筆跡1葉が当センターに持ち込まれ筆跡鑑定を早速進めました。この代表者の筆跡は一般的な筆跡に比べて変化量の大きい書き方でした。書く都度変化する幅が大きいのです。そのような条件の中でも当方では鑑定資料の本質を見極め、鑑定結果は「双方の筆跡は別人の筆跡である可能性が高い」となりました。

筆跡鑑定の鑑定結果というものは、鑑定人が事の真実を知り理解しただけでは意味がありません。筆跡鑑定の専門ではない裁判官や弁護士、一般の方々が理解できる内容でなければなりません。しかしながら、調べたい対象筆跡1葉に対して、照らし合わせる筆跡1葉では照らし合わせる側の筆跡に変化が大きく、鑑定結果を別人とした内容が色濃く表出していませんでした。そこで、こちらから鑑定依頼者である企業代表者に対照筆跡となる別の筆跡資料を集めて頂くよう改めてお願いしました。そして、収集のポイントはなるべく借用書の日付に近い筆跡が良いとお伝えしました。数日後、3つの新たな対照筆跡が届きました。この対照筆跡には企業代表者の筆跡特徴が色濃く表出しており、この鑑定資料を使用し、より筆跡鑑定の内容が理解納得できる筆跡鑑定書を作成出来ました。この筆跡鑑定書を使用した裁判でも筆跡鑑定のあり方が争点となっており、結果、無事勝訴となったと報告も頂きました。

まとめ

このように、筆跡鑑定人には筆跡の真実が見抜けても、一般的には理解しづらいあり方の筆跡も多くあるものです。

結局のところ、筆跡鑑定書は誰にでも理解してもらえる書類作成が求められており、実際に鑑定を行った鑑定人以外の人々に鑑定内容を理解してもらう必要があるのです。

以上のような理由から、筆跡鑑定には複数の対照筆跡を用意する事が優先されますし、複数の対照筆跡が使用できれば、精度の高い筆跡鑑定書となる可能性が高まるのです。

 

実際に事前鑑定を依頼される場合はどうぞお気軽にお問い合わせ下さい。どのような筆跡資料が適しているか等、筆跡鑑定についての必要事項をお電話にて詳しく説明致します。